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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)573号 判決 1950年9月05日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人阪野昭弁護人藤本秀雄の上告趣意第一点について。

所論の証人を訊問するかどうかは、事実審たる原審の自由裁量に属するのであるから、この点の措置を非難する論旨は理由なく、また本件犯行の動機原因等を事実摘示に判示しなかったからとて判断遺脱の違法はないので論旨は理由がない。

同第二点について。

本件犯行の動機に関する所論のような事情だけでは、被告人の意思の自由を抑圧して犯意の成立を阻却するに足る脅迫とは認めることができない。それゆえ、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第三点について。

本論旨は弁護人においてその主張を撤回したので、これに対しては判断を与えない。

同第四点について。

所論のような事情は、原判決の認定しないところであるばかりでなく、論旨援用の証拠によっても被告人の本件犯行が刑訴法第三七条にいわゆる「巳ムコトヲ得サルニ出テタル行為」とは到底認められないので、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

被告人佐藤京市弁護人今西貞夫の上告趣意第一点について。

被告人阪野の所論供述は、単に一片の想像ではなく、同人が実驗した事実に因り推測した事項であると認められるから、これを証拠として所論知情の事実を認定したからとて違法ではない。

同第二点について。

記録を調べてみると、原審の昭和二四年六月一七日の所論公判期日には被告人阪野昭が出頭しただけで、被告人佐藤京市その他の原審相被告人はすべて出頭しなかつたため、右阪野と他の相被告人との審理が分離され、被告人佐藤等の在廷しないまゝ被告人阪野に対し事実審理並びに証拠調がなされたことがわかる。そして、右公判期日には被告人阪野が原判決摘録のような供述をしている。しかしながら、原審の昭和二四年一一月九日の公判期日には被告人阪野および被告人佐藤その他の原審相被告人はすべて出頭し、さきに分離された手続は再び併合審理されて、しかも被告人阪野に対しては被告人佐藤の在廷するところで手続の更新がなされ同被告人は前回の公判期日におけるのと同一の供述をしているのである。そして同公判期日には被告人佐藤等に対しても審理が行われたのであって、原判決は該公判に基いて言渡されたものである。以上の次第であるから、原判決が証拠とした所論被告人の供述は昭和二四年六月一七日の原審公判期日における供述ではなく、被告人佐藤の在廷した同年一一月九日の原審公判期日における供述である。それゆえ、所論はその前提を誤るものであって理由がない。

同第三点について。

所論列車急行劵の記載事項乃至様式は、昭和十七年二月二十五日運輸省告示第二六号「旅客及荷物運送規則」第一二〇條および同日附運輸省達第八九号「旅客及荷物運送取扱細則」第一一三条に定められていて、右急行劵を発売する際には鉄道係員において右取扱細則第一一三条に従い発売日附を押印し、乗車日附、列車番号、乗車駅名及び其の発時分を表示した上旅客に之を交付すべく、乗車月日、乗車列車、発売日附、又は乗車駅が不明となった場合には前示規則第一二五条により急行劵は無効となるのであるから、所論のような粁数や料金のみが記載されているにすぎないものは、未だ急行劵の用紙であって、有効な急行劵ではない。それゆえ、被告人等が粁数および料金のみ表示された判事急行劵用紙に何ら権限なく所要の事項を記入し所定の様式にかなった急行劵を作成した以上、有価証劵僞造にあたることは明らかである。そして、原判決挙示の証拠によれば被告人において右の事実を認識しながら判示犯行に出たものであることが認められるのであるから、被告人に何ら有價証劵僞造の犯意に欠けるところはない。所論は、単なる法律の不知を主張するに止るものであって理由がない。

よって、本件各上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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